やっとこさ買って読んだ

長い間購入予定リストにあがっていながら後回しにしていましたが、ようやく買って読みました。
聴衆をつくる―音楽批評の解体文法
増田 聡
4791762835

装丁かっこいいですね、青土社ってかんじ。
えー増田さんの論文はほぼ目を通しているので基本的な内容は読んだことのあるものでしたが、全体を通して読んでみると加筆編集された部分が良く効いているのか、まえがきで述べられている「音楽はどのような角度で言語と関わりうるか/関わるべきか」という問題意識ははっきりと感じることができました。これは要するに端的に申しますと「なんで音楽を語る言説はクソばっかりなんじゃ!」という思春期から暖めてきた衝動を学問的に解消したのでは私は勝手に解釈いたします(笑)。まあこの衝動、学問的動機はすこし世代が下ながらも、音楽雑誌との青春時代からインターネットでの音楽への言説と同じ歴史を体験してきた私自身も感じてきたものであるので心から勝手に共感してるんですが。
具体的な内容は、従来の音楽批評のクリシェとなった語り口をそれぞれの章で問い直すというメタ批評となっている。「聴衆」、「ジャンル」、「歌詞」、「言語」、「政治」、「法制度」とそれぞれの章で扱うトピックはさまざまだが、どのトピックについても重要なことは我々は音楽を語るときにそれへの「愛着のディスクール」に強く拘束されているということだ。その音楽を「聴衆」、「ジャンル」、「歌詞」などといったどのような観点から語るにしろ、最終的に言いたいことの根拠は「その音楽が好きであるから、すばらしい」というような「愛着」ゆえの価値判断とならざるを得ないという音楽に対する言説の空虚さ。たしかにそのような空虚さは常々自らも感じてきたものであるから、痛いほどわかる。ただこのことが音楽への言説、音楽批評に特殊なことと断定するのはちょっと躊躇するのであって、「美術や映画の批評言語の更新と比較せよ」という風に終わらせるわけにはいかないだろう。やはり「批評」という行為を幅広く研究することはどうしても必要であるのだ。
個々の章に関することはまた書きます。とくに第2章の「ジャンルの牢獄」は日本語で読めるジャンル論では極めて優れたまとめなので自分の研究の参考とさせていただく。