献本頂いたもの

前の著作に引き続き、大和田さんから献本。お金がないので非常に助かります。買う前でよかった(笑)
文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)
長谷川町蔵 大和田俊之
4903951472

すでに私のツイッター周りでは話題になっているこの本ですが、話題通り良い本でした(http://togetter.com/li/198779などを参照)。
もちろん、こういう音楽本は細かいこと言い出すとキリがないツッコミが入るので入門というところでバッサリわかりやすく切ってくれるのは本当に助かることだと思います。おおよそのヒップホップ/ラップの歴史については自分が知っているものとは特に違わなかったけど、ゲームやコンペティションという部分を強調する長谷川、随所に黒人研究の視点を入れてくれる大和田の対談はわかりやすいし、刺激的。これを気にヒップホップ/ラップに入門というのもまんざらでもありません。
大和田さんの前著からのながれでいうと、『アメリ音楽史』の90年代以降の増補とも読める部分も多いです。例えば「アフロ=アジア的想像力」とか「ラテン化」あたりの議論は。
残念なところは日本のラップ/ヒップホップにまったく触れられていないこと。まあこれは入門書として割り切るとしても、やっぱ今の若者にとっては日本語ラップのほうが入りやすいと思うし、それに見合うだけの日本語ラップがあるのになんだかもったいない気がする。続編に期待!
以下、特別に面白かった場所をピックアップ。

長谷川 東海岸のようにコンプレッションがかかったこもった音ではなくて、隙間を活かしたリヴァーブが効いた音なんです。これはロサンゼルスという地域性が大きいでしょうね。ニューヨークと違って、音楽が圧倒的にカーステレオで聴かれていますから。車で気持ちよく響くサウンドを志向したことで、音楽性が変質したところがあるんです。その点も郊外に住む白人にウケた理由なんでしょう。
(126-127)

長谷川 それとBPMが遅い。NWA時代の曲は110前後の曲が多いけど、このアルバムは90前後なんじゃないかな。最初に聴いたときはぜんぜんピンとこなかったんですけど、偶然カーステで聴いて、これは車で聴くための音楽なんだって分かったんです。
(128)

NWAからドクター・ドレーギャングスタ・ラップにおけるサウンド・プロダクションの特徴の話。BPMの低下については僕も同じ事を考えていたのだが、それがカーステであうっていう観点はなかった。むしろ、不良がダラダラとダラシなく歩くのにふさわしいのではと思っていたので。まあ実際にゴージャズなプロダクションのドレーの曲は確かにカーステに合いそう。というか完全にGTA的な気分にマッチするので、やっぱギャングスタという想像力はビデオゲームと切り離すことはできないのでは?って思いますね。
ところでギャングスタ系ラップの遅いテンポって、日本のヘッズに見られる手の上下運動に最適化されているという話もあって、この辺の感覚は日本とアメリカでは違うのかなーって思いますね。

長谷川 とにかく90年代に起きた、ヒップホップ・ソウルからティンバランドの登場という出来事は、黒人の歌ものの歴史でも50年に1回くらいの革命的な事件だったと思うんです。日本のR&Bっぽい人の曲を聴いて残念なのは、この時代に起きた変化を分かっていないことなんですよ。漫然とニュージャック・スウィングから感覚がつながっちゃっている。
(195-196)

これはまったく同意なのだけど、例えばコレとか完全にソカってるんですが、どうなんでしょうかね(笑)。映像は関係ありませんよ。

まあそれでも日本のヒットチャートに乗る音楽のほとんどは、良い意味でも悪い意味でもなく、ちゃんとAメロBメロサビみたいな構成まもってますよね。誰のためなんかと思いますが、正直、広告主のためだと思います。リル・ウェインの「アミリ」みたいな曲でタイアップとっても「どこがサビなんだ、どこをCMで使うのか」とキレられるだけですからね(笑)

あとリズムにおけるクラーベやセカンドラインの導入は、ロックでも同時期やそれ以前から取り組まれていたことは、ロックオタとしては言及しておかなければいけないでしょう(笑)
例えば

ドラムの手数が多い上に、音質のせいで聞き取りにくいとは思いますが、ここからカリブのビートを思い起こすのは無理ではないでしょう。そもそもロックンロールの初期の曲「ラ・バンバ」やガレージロックの名曲「ルイルイ」は明確にカリブ由来のものなので、それらに影響を受けているアメリカのパンク/ハードコアはイギリスのスカ系とはまた違った形でカリブのビートが入っていると思います。なんたってブラックフラッグもルイルイはカヴァーしているし。

ドラムはともかく、このギターリフにはカリブを感じます。

あとこの本で取り上げられていたこれ

セカンドラインのリズムを延々と強弱だけ変えるという驚きの発想。
これ聞いて思い出すのはやっぱこれ

いちおうBメロらしきものがあるにしろ、イントロとAメロ、サビはほぼ同じコード・ベース進行。この楽曲において一番の魅力は結局のところエフェクターのオンとオフで、サビに入るまえのエフェクターの踏み込みこそ命っていうのはコピーするとなおさらわかる。
録音物で音楽を表現するようになったとき、我々は五線譜では表されないサウンドを味わうようになったわけだけど、端的に音量や音圧ってものも表現の一部なんじゃないってこの二つの例から十分言えそう。


なんか全般的にラップの新しいところ、ロックにもあるぞ、みたいなイヤラシいツッコミになってしまったが(笑)、実際のところロックを研究している人が少ない以上、見逃すことはできないのである。