震災が与える音楽業界への影響

といってもすごく産業規模にはミクロな話。多少脊髄反射的なエントリになるが、バンドをやってきた人間としてどうしても書きたくなったので書く。
問題のブログは
音楽人・バンドマンに警告!ライブハウスが潰れます! | らふすけっちのブログ
要約すれば地震の影響でイベントやライブが中止になり、また主催者に被災者が含まれるためにライブハウスがキャンセル料をもらうことができずに、資金繰りに困っている。ヘタをすれば2,3ヶ月で倒産するライブハウスも多くでるだろう。
ここまではまあ分かる。実際に、イベントが中止になっている現状をみているし、私は調査のためにライブハウスやスタジオなどに出向いている。そして停電など震災の影響のため、営業時間が短くなったりしていることは知っているし、ライブハウスが零細企業で2,3ヶ月の資金繰りでいっぱいいっぱいであるのは知っている。
問題はその後である。イベントの主催者側(ブログでは関係者という曖昧な言葉であるが)に東北出身の人がいるという理由で、あるライブハウスはキャンセル料を免除しているという。しかも、この時期になぜかキャンセルする人々で東北関係者が多いという。もしかしたら、本当は震災と関係ない人間がキャンセル料を払いたくないために東北出身を語っているのではないか。
最後の不謹慎かどうかとかは置いとくとする。問題はこの記事はライターの方が取材の上で書いているというのだが、このエントリで分かる事実は「あるライブハウスはイベントの主催者が東北出身なために、キャンセル料を請求しなかった」ということぐらいである。そして以下で述べられることは、ほとんど伝聞や推定に基づいた根拠がないものである。

ここにきて、東北出身の関係者が急増なのだという。

東北出身と言えばキャンセル料が取られない、という噂が
どこかで蔓延しているのだろうか?

本当に東北出身なのならまだしも、そのことに便乗して
キャンセル料を免除してもらっている者たちが
いるのだとしたら、これはもう、被災地域で犯罪を
犯す犯罪者と同じではないだろうか?

ライブハウスの証言、それも曖昧な推定を一方的にとりあげて、悪いバンドマンやイベント主催者がいるがのうような主張しているが、そもそもそのような事実があるかどうかさえ不明である。ライターを名乗るぐらいなら、せめて複数のライブハウスの証言をまとめるとか、キャンセルしたバンドの証言を聞くくらいのことをしてもいいだろう。この発言の不公平さはバンドをやっていた人間として無視できない。
さてこのエントリとは離れて、そもそもがキャンセル料がもらえないからライブハウスが潰れるという事態そのものについて考えてみよう。この事態はつまり、ライブハウスは基本的にイベント主催者からのお金をその経営・運営の主要な財源としていることを意味する。ここで言うイベント主催者っていうのは、メジャーな大手のアーティストのライブを運営する興行会社をのぞくと、ほとんどの場合、アマチュアやインディーのミュージシャンたちのことである。つまり、ライブハウスは基本的に出演するミュージシャンやバンドマンからのお金、いわゆるノルマをもらわなければ経営できないのである。
ちょっとでもライブハウスでバンドしたことがある人には百も承知だろうが、日本の多くのライブハウスのお客さんとは、箱に来るオーディエンスではなく、そこに出演するバンドマンやミュージシャンなのだ。つまり、震災によって潰れる危機がある多くのライブハウスはノルマ制やイベントの箱貸ゆえに資金繰りが苦しくなっているともいえるのだ。そういう経営方針してきた側から、バンドマンにその経営問題を押し付けるのは笑止千万といえる。キャンセル料を免除してやったとか、お涙頂戴のようにいわせるが、そもそもライブハウスが自らの箱を使ってイベントを企画したり、本当のお客さんを呼んだりすることができないことが問題だって、10年くらい前から言われてきただろうに。
バンドマンからお金を取ること以外で商売できない箱は潰れてもらって構わないです。キャンセルするならキャンセル料を払わせるとか普通に契約上できることはすればいいと思うが、この機会を使って懇意にしているバンドのチャリティー企画とか積極的にブッキングするとか、バー営業でライブハウス側が何か出し物でもすればいいだろうとも思う。
たしかに不謹慎の合唱でイベントが休止になることはあまり楽しいことではない。しかしそんなことと関係なく、自らの経営手段にあった問題点をバンドマンに押し付けるような書き方をするライターは何を守りたいのだろうか?明らかにバンドやミュージシャンではなく、ライブハウスだろう。どっちが音楽文化にとって重要か良く考えてみてほしい。

ちなみにノルマ制についての議論は2ちゃんレベルでhttp://music2chnews.blog123.fc2.com/blog-entry-318.htmlされている。
日本の「ライブハウス」という特殊な文化についてはこの本が参考になる。
ライブハウス文化論 (青弓社ライブラリー 53)
宮入 恭平
4787232851

これまた少しバンドやっている人には常識だが、ノルマ制は日本独自な制度であって、英米の箱は基本的にバンドからお金を取ることはない。むしろ売上のバックがある。なぜなら、そのような箱(ライブハウスとは呼ばない、ライブハウスは和製英語)はバーでの飲食物の売上が基本的な財源であるからだ。
はてなブックマークでも「東北出身者や関係者を語るバンドマンが多い」とか間に受けている人がいたりするが、全然、不明瞭なことなので、もう少し考えてみてほしい。たとえそのような人がいても、多くのバンドマンはきちんとライブハウスに金を払っているし、バンドマンの金と集客でライブハウスは経営されていることを良く考えてほしい。

追記:音楽人・バンドマンに警告!ライブハウスが潰れます! | らふすけっちのブログに関する他の反論
Facebook内だがライブスペースを経営する側からの意見です。「音楽人・バンドマンに警告!ライブハウスが潰れます!」に違和感を覚える | Facebook
バンドとレーベルをやっている方の意見です。概ね納得が行くものであり、「東北関係者」であることでキャンセルするイベンターもキャンセル料を免除するライブハウスもそんなにいないのは確かでしょう。レーベル運営の悲喜交々:ツイート「音楽人・バンドマンに警告!ライブハウスが潰れます!」に対する激烈で徹底的な反論。