研究生活カイゼン!プロジェクト第2回+Store外伝:外山滋比古の教え

id:tanakaxより借りた以下を読了
思考の整理学 (ちくま文庫)
外山 滋比古
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なんというか元祖ライフハックである。1986年に今のIT化に対応できるような知的生産のTIPSを巧みな文章によって書いたエッセイである。まあ内容は取り立てて新鮮でもないし、中には実現不可能かつ胡散臭いものも含まれる(だって朝飯前に仕事をやるために朝飯を遅らせるってのはさすがに詭弁だろw)。
そうはいっても外山先生の素晴らしい日本語はそのような海千山千な発想も、なんだか納得がいくようにさせるからすごい。さすがに国語の教科書や試験に取り上げられるわけだ。
エッセイであるから全体を通してさほどまとまりがあるわけではないけど以下がその内容の大筋である

  1. 教育論(+朝飯前)
  2. 着想論、編集論
  3. ストアについて:スクラップ、カード、ノート、つんどく法、手帳とノート、メタ・ノート
  4. 整理術:忘却、すてる、テーマと題目
  5. 学際的な知:月光界、ロゲルギスト、ロータリー方式
  6. コンピューター以降の創造性

我々が考えているリサーチハックにとって重要なのは3と4であるだろう。外山先生はコンピュータの登場によって人間の知的生産のあり方が変化するという卓見を持っているが、実際にはその資料のストアや整理はアナログなやり方に頼っている。我々としてはこれを今の高度にIT化された社会にいかにオプティマイズするかが問題となってくる。
それでも3で書かれるストアの仕方の分類は今でも有用だ。外山先生いわく、ストアには三つの流派が存在する。
第一に一番ラジカルな立場としては、「何事もメモしない」というものだ。これは外山先生は「つんどく法」と命名している。つまり、何か原稿や論文を書かなければいけないとき、とりあえず集められるだけの資料を集め、それらを山として積み上げ、それを読むことによって切り崩し、原稿を仕上げるという算段である。ともかく読んでしまって、書く。メモを取らない。id:tanakaxいわく、アラビアのロレンスとして知られるトーマス・エドワード・ロレンスもこのような論文執筆方法をしていたらしい。またアルコールやオクスリの類を利用して、このような方法で論文執筆をしなさる方々がいるようだ。まるで降霊術ではないか(笑)。ともあれ、ある有限な資料から知的生産物を生み出す作業において、我々は確かに霊媒師(メディア)になる必要があるだろう。
第二の立場としては非常に古典的なノート方式がある。これはつまり時系列ごとの情報のストックである。この利点は情報を一元化でき、なおかつポータブルであることだ。散逸する可能性も少ない。欠点は情報が断片化しやすく、結果的にノイズが多い情報になってしまうということだ。
第三の立場も古典的であるカード方式である。いわゆる京大式カードとか呼ばれるアレのことであり、利点は情報のソーティングのしやすさである。欠点は散逸する可能性が非常に高いことである。
このノート/カード派の間の争いに決定的な論点はないと思われる。目的に応じて、両者の手段をうまく使っていくことが必要である。もしかしてPCを活用することによって、この二つの立場のジンテーゼがあるのかもしれないが、今のところ私は知らない。
しかしながら、どちらの立場にしろ重要なことは、ストアした情報はいずれにせよ断片化するので、ある一定の頻度によっていわゆる「デフラグ」をする必要がある。id:tanakaxと話し合った結果、この頻度の基準には定期的、定量的、創案的の三つがある。
定期的とは、名のごとく一定時間ごとにデフラグを行う。例えば、一ヶ月に一回、ストアした情報を整理してまとめる日を設ける。定量的とは、名のごとくある一定量の情報がストアされたらデフラグを行う。具体的には、一冊のノートを使い切ったら全体を目を通して再編集を行う。このようなやり方として、外山先生はメタ・ノートなる概念を作り、一次的なノートを再編集したノートを作成することを薦めている。創案的というのは、先の二つとは趣を異にして、ある一定のアイデアが固まりしだい、ストアされた情報をデフラグするというものだ。例えば、「可能世界論における愛の概念」という論文のテーマが思いついたら、そのテーマに見合った情報をストアされた一次的情報から分離して、再編集するわけである。
これらのデフラグの頻度の基準についての議論は様々であろう。しかしとにかく重要なことは、メモやノートやカードといった一次的な情報は、どこかで必ずデフラグする必要がある。そのような作業を行わず、完全に断片化してしまう情報はほとんど有用性はない。外山先生が4で述べるとおり、いかに捨てるかという問題もそのデフラグの作業によって解決されるはずである。
さて以上のようにこの本は我々のリサーチハックプロジェクトにおいても大変、有効な意見が含まれていた。ここで記述した以外にも、ロゲルギストや月光会を例に、いかに他人と情報交換する場を設けるが知的生産にとって重要かを述べた部分の非常に興味深かった。我々も同じ分野の人ばかりと群れているのではなく、たまには異業種懇談会のような場を設けたらよいと思われる。
ちなみにこの本で読書マラソン3/100到達。まだ先は長い。