日本語ラップ

なんとなく図書館で借りて読んだけど面白かった。
ヒップホップ・ジャパン
陣野 俊史
4309266908

陣野氏はフランスのラップについても書いている批評家/ライターである。この本はECDNIPPS、Shingo02、向井秀徳という五人の日本語ラッパー?(向井はラッパーかどうかはさておき。またこの中でNIPPSとShingo02はバイリンガルで英語のラップも得意とする)のインタビュー集である。なにかの媒体に載ったインタビューを集めたものというわけではなく、この本のために書き下ろし、語り下ろしされたインタビューのようだ。
常々、アーティストに対して歌詞の意味するところを聞くようなインタビューの不毛さを感じることは多いが、この本は非常に面白かった。基本的に陣野氏が歌詞やトラックを熟読、熟聴したうえで直接、アーティストに対して問いを発するのではあるが、その下準備の熱意は偏執狂的ともいえよう。ラップのリリックは場合によっては印刷されたものがCDやなんかについてくるけど、もちろん歌詞カードがないものもある。陣野氏は場合によってはリリックをすべて書き起こした上でインタビューをしている。なんだかそれだけでもすごい。
まあ結果的にラッパーが考えている以上に陣野氏はリリックを深読みすることになるんだが、本質的に言葉が関わるような形式の音楽であるラップにおいては、そのような深読みもありなんじゃないかなとは思った。ECDの「マンガ家じゃないんだ」というリリックを「真ん中じゃないんだ」と聞き間違えたあげく、「つまり左翼か右翼」なんだと解釈してしまう話とか、普通に笑っちゃうくらい面白い誤解なんだけど、そういう誤解を生み出すのがラップの魅力なんだろうと思った。
ただガチンコスタイルのインタビューなわけだから、当然、対戦相手のインタビュイーのセンスによってまとまり方がかなり違う。最近では文芸誌での活躍が目立つECDのインタビューは日本のヒップホップ史の証言として重要な発言が多かったけど、NIPPSのはその抽象的なリリックに常に、はぐらかされている感じがするし、向井秀徳は同じことしかほとんど言わない(笑)。Shing02は常に真摯な応答をくれるんだけど、どこか宗教的でミステリアスな内面はいつになってもつかめない。
結果として、それぞれのインタビューは彼らの音楽性を反映しているからいいんだけど、普通はNIPPS向井秀徳の歌詞とかをマジメに読んだりしないよね(笑)。自然体のアーティストに対して、常にガチンコでぶつかる陣野氏はどこか滑稽に写る気もするが、今の時代、こういうマジなインタビューのやりとりって無い気がするので新鮮である。
この本が出た2003年に比べて、現在の日本のヒップホップシーンはよりシリアスなものとなっている。一方ではひたすら前向きなリリックを単調に並べるJ-Popの中のラップと、格差社会の現実をまざまざと見せ付けるアンダーグラウンドなラップ。今だったらAnarchyやMSCの漢とか相手にガチンコのインタビューを見せてくれそうな陣野氏に今後も期待しておきます。