『論理学をつくる』戸田山和久-第3章読書メモ1

ついに第3章の意味論に入る。ここからは長いのでメモも分割して書いていこう。タイトルは「人工言語に意味を与える―命題論理のセマンティクス」。人によってはこっちの内容の方が2章の後半よりも簡単。真理表などは高校数学で出てくるし、意味論は哲学でも論じられるし、直感的に理解しやすい。統語論の方がなんだか記号ばっかりでとっつきにくい。

結合子の意味、真理表

今までのところ、日本語の中でも典型的に論理的な文章を分析することで、人工言語Lを設定してきた。そして日本語のの内容のある文、例えば「彼はmixiをやっているか、twitterをやっているかのどちらかだ」、「彼はmixiをやっている」、「よって彼はtwitterをやっていない」とかいう論証を

前提
P∨Q

結論

というような感じで論理式に置き換えてきた(何を原子式にしたかは推測してください)。この程度の日本語なら、だれでもすぐに論証が妥当であることがわかるが、論理式に置き換えるともっと複雑な論理式の妥当性を考えるのに便利だ。しかしながら、まだ∨とか∧とか→、¬がいった何にかをはっきりとわかっていない。∧とは日本語の「かつ」のことですっていえるけど、それだけの説明では厳密さに欠ける。論証の妥当性は、PとかQとかの内容に関係がないのなら、これらの結合子の意味を考えることは非常に重要だ。
以上まとめると
これまでのまとめ

  1. 論理学の目標は、正しい論証とはどういうものかを明確にすること
  2. 論証の正しさはそこに現れる結合子の意味だけに依存している
  3. だから、結合子の意味を明確にする
  4. さらに、推論の正しさは、そこに現れている命題が真であることそのものではないが、もしも前提がすべて真ならば、結論も必ず真だと認めざるをえない、という仕方で命題の真偽に関係している

これらから結合子の意味は、命題の真偽にどう関わるかという観点から、厳密にする必要がある。厳密に意味を定義するために真理表truth tableってのを使う。以下、これまで出てきた4つの結合子の真理表を提示する。

でない(否定negation)

A ¬A
1 0
0 1

かつ(連言conjunction)、または(選言disjunction)、もし…ならば(条件法conditinal)

A B A∧B A∨B A→B
1 1 1 1 1
1 0 0 1 0
0 1 0 1 1
0 0 0 0 1

「え、何?意味っていうのに何で数字が並んだ表なんだよ?」って突っ込む前に、まあもちつけ。AやBは例のごとく任意の論理式が入る図表文字である。そして数字は真理値truth valueと呼ばれる値で1が真、0が偽である。何かとりあえず原子式になる命題をAやBにぶち込んでみる。
するとA「オレはオタクである」が真であるとき、つまりAが1のとき¬Aは0になっている。つまり「オレはオタクでない」は偽である。そう考えるとこれが結合子の意味を表していることがわかる。そしてA∧Bに関して、A「オレはオタクである」、B「オレはサブカルである」として同じように考えてみよ。そうするとA∧Bが真になるのは「オレはオタクでかつ、オレはサブカルである」という場合だけなのも理解できよう。つまり結合子の意味は真と偽の組み合わせの仕方だけで出来ていることになる。
このような「論理式はすべて、つねに真・偽いずれかの真理値を持つ」というルールを2値原理principle of bivalanceという。今後、このルールを採用するが、このルールを採用する原理的理由はない。つまり、「どちらでもない」とか「わからない」とかも含めた、2つ以上の真理値を持つ論理学だってある。それを多値論理manyvalued logicというが、ややこしいので教科書でも後で解説される。


さてこのように真理表で結合子の意味を与えることを理解できたら、∨とか→とかについても具体的な日本語の論証の例を代入して考えてみて欲しい。ここで普通の日本人はアレ、どこかおかしくないかと思う。そう思わない人はネイティヴなロジシアンか、電脳化されたアンドロイドであろう。
どこが変なのかというと、まず∨に関して。私の高校時代の数学教師があげていた例を出そう。

あなたは秋葉原でふらっと喫茶店に入ってカレーライスセットを注文した。食事をした後、メイドさんが以下のように尋ねてきた。
「食後にはコーヒーまたは紅茶が付きますよォ。ご主人さまぁー(ハート)。」
あなたは真理表を手にして考えた。A「コーヒーが付く」、B「紅茶がつく」、A∨Bが真であるのは3通り、つまりコーヒー、紅茶、コーヒーと紅茶、三つの場合がある。両方ともほしい、俺はほしい!!!と
「ではコーヒーと紅茶両方もってきたまえ!」
「はぁ?何行ってんの?そんなの許されるわけないじゃん、バッカみたい。」
「いやいやでも真理表にはそう書いてある!」
さてさて、正しいのはどちらやら。ちなみにこの喫茶店ツンデレ喫茶というわけではない。

要するに問題はA∨Bの真理表がA、B共に真であっても真であることだ。日本語はそういう使い方もするが、この例のように、それこそ空気を読んでそれ以外の使い方をしなければならないこともある。つまり、日本語には二種類の「または」がある。メイドさんが言っているのは排他的選言exclusive disjunctionといってA、B両者が共に真であるときは、全体が偽になるような選言なのだ。それと違って真理表のは非排他的選言non-exclusive disjunctionという。排他的選言に関しても真理表を与えることができる。ここでは排他的選言をUとして表そう(教科書では∨の下に線が入っているのを使っているが、表記できないため、とりあえずこうする。排他的選言の共通記号あんの?)

排他的選言exclusive disjunction

A B AUB
1 1 0
1 0 1
0 1 1
0 0 0

まあこれでこの疑問は解決。


次に気になるのは→である。→は前件が偽なら常に真、じゃあ後件が真でも偽でもA→Bは真?例えば、「彼はオタクならば、彼は非モテである」という命題があったとして、「彼はオタクではない」としよう。そしたら「彼はオタクならば、彼は非モテである」は真ということになる。えー!もっと言えば「1+1=4ならば宇宙人は存在する」とかも真になる。この疑問はかなりまっとうである。
というのも→は日本語の「ならば」を人工言語Lで近似したものであり、この近似は様々な犠牲を強いる。例えば、2値原理がそうで、普通に考えて「1+1=4ならば宇宙人は存在するか?」と聞かれても「わかんない」と答えるだろう。さらに、日常語の「ならば」は前件の肯定を想定している。つまり「彼はオタクならば、彼は非モテである」というとき、日常的には「彼がオタク」であることを自明としたうえで、この発言をして、「彼が非モテ」であることを主張していることが多い(差別的な考えの持ち主の言うことだなー)。さらに「1+1=4ならば宇宙人は存在するか?」の変さは、普通は、前件と後見の間に内容上のつながりがあるときに「ならば」という日本語は使うことが多い。つまり、「彼はオタクならば、彼は非モテである」のような発言は、その真偽の如何に関わらず、オタク=非モテのような内容上のつながりを含意しており、論理的には問題なくとも、倫理的には問題があったりする。
この→の意味論に関する日本語との不一致は論理学のハードルを少しばかりあげいている。だって日本語的におかしんだもん。でもまあ、そういう違和感は置いといて、こういう風に決めたとして丸ごと覚えた方が良い。しかしながら、この→の真理表が日本語的にも正しいという巧妙な言い訳じみた論法がある。戸田山先生はファミコンを買ってやる父親の例を挙げているが、ここでは野矢先生の言っていた例を挙げよう。(脚色アリ)

お父さんが娘(こなた)に言いました。
「明日晴れたら、秋葉原に連れて行ってあげよう。」
「わーい!」
このとき次の4つの場合がある。

  1. 明日、実際に晴れて、こなたは秋葉原に連れて行ってもらえた
  2. 明日、実際に晴れたが、こなたは秋葉原に連れて行ってもらえなかった
  3. 明日、雨が降ったが、それでもこなたは秋葉原に連れて行ってもらえた
  4. 明日、雨が降ったので、こなたは秋葉原に連れて行ってもえなかった

このときお父さんがウソついたこと(約束を破ったこと)になるのは2の場合のみ。よって→の真理表は日本語に適している。

これで納得しただろうか?いや、納得しない?そう考える人はそれなりに正しい。例えば、3について「明日、雨が降ったが、それでもこなたは(無理やり)秋葉原に連れて行かされた」と書き換えるとなんだか、お父さんは約束を守っているように思えない。つまりやはりこのような説明でも→と日本語の「ならば」は同じものと考えることができない。ただし、論理学の目標と2値原理というルールの採用において、この近似はベストの選択であるらしい。そのきちんとした説明はまた後の方で行われるらしいので、ここではともかく、真理表が書けるように覚えてしまおう。

真理値分析

以上のように結合子の真理表を設定すると、どんな論理式についても、それがどういうときに真になるか(それを真理条件truth condition)、または偽になるかとかがわかる。具体的には¬((P∨Q)→R)とかの部分論理式P∨Qから出発して、(P∨Q)→Rという風に、P、Q、Rがそれぞれ取りうる真理値をすべてしらみつぶしで調べれば良い。これくらいならまあ、そんなに大変じゃないけど、原子式が増えたり、論理式全体が大きくなったりするとかなり面倒だ。まさにコンピュータがやってることを手作業でやるんだから、あたりまえだけど、少しくらいやっとくと、対偶法の証明などに役立つから、論理学的にも数学的にも必修だ。そしてそのような論理式の真理値を分析することを真理値分析と呼ぶ。めんどくさいから実例とか書かない。(http://www.crew.sfc.keio.ac.jp/projects/2001ipl-text/info-2001-4/text-b/ronrimain.htmなどを参考にしてください。)
ちなみに教科書では練習問題7で出される論理式のほとんどがトートロジー(以下で説明)というオチで、なんだか実際に分析していてアホらしくなった。P∨¬P(排中律)や¬P→(P→Q)がトートロジーであることはすぐに見抜けるけど。


さてこのタイミングでさらに新しい結合子が追加される。それは双条件法biconditinalと呼ばれるもので⇔で表すとする。英語ではA⇔Bを「A, if and only if B」と読み、英米系の哲学書などを読んでると、かなり頻出用法です。しかし、これがまた訳するのが面倒で、私もいつも困っていて、とりあえず論理的同値として理解していた。戸田山先生はデフォルトで「AであるのはBであるとき、そしてそのときに限られる」という訳出をあげていたが、誰かなんとかして欲しい。ちなみに日本語ではこれも「ならば」で済ませている。ああ、どういう意味か真理表を書かなければ

双条件法biconditinal

A B A⇔B
1 1 1
1 0 0
0 1 0
0 0 1

英語では略して「AiffB」と書く。これも英米哲学書では普通に見られるものだから、この程度の論理学は英米哲学を研究するものとして必修なのだ。なぜしかし、これを「A, if and only if B」と読むのかは英語の知識が必要で、「A, if B」と「A, only if B」では条件法の前件と後件が逆であることから由来する。この辺は、英語としてたまに忘れそうになるから、一緒に覚えておこう。

トートロジー

いろんな真理値分析をやるとわかるが論理式は、以下の三つの種類に分類される。

  1. トートロジー(tautology):それに含まれる原子式の真理値の取り方に関係なく常に1となる式
  2. 事実式(contigency):それに含まれる原子式の真理値の取り方によって1にも0にもなる式
  3. 矛盾式(inconsistent wff.):それに含まれる原子式の真理値の取り方に関係なく常に0となる式

トートロジーは恒真式とか「真理関数的に妥当な式truth-functionally valid wff」ともいう。さらに、トートロジーと事実式を合わせて、充足可能式satisfiable wffと言う。とにかく1になる(つまり真でありうる)ことができる式という意味だ。
代表的なトートロジーはさっき言った排中律A∨¬Aとか対偶法(A→B)⇔(¬B→¬A)とかがある。これらも真理条件分析すれば証明できる(排中律は直感でわかるけど)。さらに高校数学で習うド・モルガンの法則¬(A∧B)⇔(¬A∨¬B)、¬(A∨B)⇔(¬A∧¬B)なども含まれる。AやBが図表文字であるわけだから、これらは任意の論理式のについて当てはまる。他にもいくらでもあるけど、すべて書いても仕方ないからね。教科書には図が載っている。どっかに代表的なトートロジーを集めたサイトでもあるでしょう(なげやり)。
さてトートロジーは任意の論理式を示す図式AとかBによって示されるけど、ここでさらに「任意のトートロジー」を示す図式文字を導入する。それをTとして、逆に「任意の矛盾式」をI(教科書ではTの逆さまの文字だけど表記できない)としよう。そうすると今度はTやIを部分論理式としたトートロジーが得られる。例えば、(A∨T)⇔Tなど。このときTには同じ論理式を入れる必要は無く、どんな論理式でもそれがトートロジーなら役立つ。教科書にはTやIを使った、いろいろなトートロジーが書かれているけど、これも真理値分析すれば証明できる。例として今あげたやつを証明してみる。

証明
(A∨T)⇔Tを真理値分析すると以下のようになる。

A T A∨T (A∨T)⇔T
1 1 1 1
0 1 1 1

よって(A∨T)⇔Tはいづれの場合も真理値が1、ゆえにトートロジー
QED

アホみたに簡単だけど、ともかくTはどの場合も真理値1をとり、Iはどの場合も真理値0をとる図式文字だと思えばよい。
ここで以上の真理値分析とトートロジーに関する練習問題9が出されるが、証明問題だから非常に難しい。背理法とかのテクニックとかセンスがなかったら、うまく証明ができない。まあメンドウだから書かないけど、一応答えてみたが、正答率は50パーセントくらいだ。知らない証明問題はマジむずい。