聴覚文化研究とアナール史学

前期、サバティカルでなかった渡辺ゼミなんだが、後期はなんとコレを読むことになっていた。
Auditory Culture Reader (Sensory Formations Series)
Michael Bull Les Back
1859736181

なんと谷口さんとこの読書会とかぶってるやん。まあ似たような興味を抱くもんだからね。
今日は7章のアラン・コルバンの「村落の聴覚的指標」を読んだのだが、これって日本語訳がある本の中の抜粋なんだね。なんだか残念。
音の風景
アラン コルバン Alain Corbin 小倉 孝誠
4894340755

さてコルバンアナール派の重鎮であり、その精緻な調査はすごいくて切り口も面白いんだけど、自分のような中途半端な人文系はかのような圧倒的な資料を扱う実証的史学に対しては、カナイマセン…っていう他ない。今日読んだヨーロッパのコミュニティと鐘の音の関係は、特段コルバンが手をつけたというよりも、日本の偉大な中世史家であり、先ごろ亡くなられた阿部謹也先生も指摘しているとおり、戦前からヨーロッパの史学で注目を受けていた問題関心である。というか我々日本人が思う以上ヨーロッパではCampanology、鳴鐘術なるもんがあるくらい鐘ってのは重要なもんだったようだ。
まあともかくこうした実証的史学によって過去の人々が感じていた生活や世界を描くのは非常に有益であるとは思うんだが、自分のようなハンパもんはとても真似できないゆえに、そのような重要な遺産を引き継いだうえでもっと面白いことを語らなければならないと思うにいたる。というかAuditory Culture Studiesなるもんが存在するんであればそうしなきゃいけないのであって、コルバンにせよ阿部謹也にせよそうした呼称とは無関係に偉大な業績をあげているのであれば、ただ人類の過去の聴覚に耳を傾けるのではなく、聴覚文化研究としては何が文化研究なのか、についてよく考える必要があると思った。
中世の星の下で
阿部 謹也
4480020977