音楽の好みの伝達方法について

この前は変に考えすぎたので、今回は気楽に行きます。自分の研究がいったいどういうことに興味を持っているかを簡単に書きたいと思う。
ある音楽の好みを他の人に伝えることはいかに可能か?
あなたは好きな曲がある。たとえばスライ&ザ・ファミリーストーンの「ファミリー・アフェアー」が好きだとする。その曲が何を指すか知っている場合、あなたは私にその曲のタイトルを伝えるだけで事足りるようにも思える。
だが、それだけで私はあなたの音楽の好みは分からないのでこのように聞くであろう。「その曲のどこが好きなんだ?」
これに対する答えは様々であろう。あなたは自分の好みを私に伝えるために、いろいろな手段に訴えることができる。その方法をまず考えてみよう。


1 形容詞による説明
これは思うに大きく分けると二種類のものがある。一つはすでに音楽を表すのに認められている形容詞によって、自らの好みを伝えようとする方法。もう一つは個人的な感覚に頼った説明である。この二つはグラデーションを描いており、判然と分けられるものではないだろう。しかし、グルーヴ、ノリ、間、ファンキー、エモといったすでにポピュラー音楽の中や、他の音楽の文化の中で一定の使われ方が獲得された言葉による説明(すでに名詞化されているがその源として形容詞から派生したものである)と、「明るい感じ」とか「にぎやかな感じ」といった一般的な形容詞を個人的な感覚に訴えて使う説明には違いがある。次の2の説明も基本的に1の中で確立したとも言える。


2 西洋音楽学の用語による説明
これはつまり、音楽のハーモニーやメロディー、和音、コード・プログレッションなどに言及することによって、自らの好みを伝えようとするやり方である。「この単純なコード進行と的確なギターのリズムが好きなんだ。」といったように


3 音響楽的な物理的説明
これはあまり現実的な方法とは言えないかもしれないが、一番その好みの音楽の特徴を正確に表すことができる方法かもしれない。要するに「この部分の周波数とアッタクまでの時間…がいい」といったもので、知識が無いものには何も伝わらない。しかしオーディオ愛好家たちはこれらの用語によって自らの音楽の好み(というか音楽再生装置の好み)を伝えることができると思われる。


以上の分類はとりあえず便宜的なものに過ぎないであろう。ただその言葉遣いがliteralなものかmetaphoricalなものかという観点において、緩やかに繋がっているとは言え、区分できるであろう。
つまり1から3に行くにしたがってその意味がliteralなものになっており、こう言うことが許されるなら、実在的な性質について言及する割合を増やしているように思える。
また、その音楽の好みを伝えるという効果から言うと、過度にliteralなもの、過度にmetaphoricalなものはあまり現実的ではないようにも思われる。
そういった意味でこの音楽の好みを伝えるという文脈では2と、1の中の音楽を表すのに認められている形容詞(または名詞)による説明、が重要になってくる。
今後、考えるべきこととしては

  • 2の説明の特殊性と普遍性について
  • 1の中の個人的なものと、すでに認められているもの、要するにある文化の中で正統性を持ったものの違いについて

そしてそこからポピュラー音楽のジャンル名について考える。さらにはmetaphoricalなものの指令性についてなども。


あとこういうことを考えるために現象学的思考ってそれなりに使える気がしてきた。まあそれでも話の導入としてしか使わないと思うけど。