社会学的読書

最近たてつづけて読んだもの。入手経路が全て異なるが偶然にも全てにおいてエスノメソドロジーが関わる本であった。
概念分析の社会学 ─ 社会的経験と人間の科学
酒井 泰斗
4779503140

ことばと身体 「言語の手前」の人類学 (講談社選書メチエ)
菅原 和孝
4062584816

「あたりまえ」を疑う社会学 質的調査のセンス (光文社新書)
好井 裕明
4334033431

まず『概念分析の社会学』は著者さんから直接購入。分厚いし、高い本だけど、濃密であった。ところどころ入るナビゲーションがあるのでなんとか読めたけど、まあ難しい部類にはいる。とはいえ、概念分析という事自体は哲学的なことなので、なんなく理解できるし、それが社会と関係あることは別に言われなくても分かると(むしろ哲学を社会と関係ないものだと捉えるほうがおかしい)。一番、重要な概念である「ループ効果」(科学の概念と、その概念によって記述される人々との間で相互作用)に関しても、その路線で理解できるが、問題はそれが各々論文でどういうふうに記述されているのかを理解するのは難しい。分かりやすく「ループ効果」について書かれているものがあるものと、そうではないものとばらつきがあるように感じられた。
さて、この「概念分析」というメソッドが向かう先の社会学はどういったものだろうか。自分としては取り立てて「社会学」と名乗る必要もないとは思うが、エスノメソドロジー的な研究が哲学的な洗練を受けることで得るものは大きいと思う。個人的には、さらに現代的な存在論考え方を社会学ないしエスノメソドロジー的研究に取り入れるといいのではと思っている。
次はたまたま関係者から頂いた書籍であったが、目を通してみると私の関心に近いことが書かれていた『ことばと身体』。菅原先生は文化人類学の専門家であるのだが、この本に出てくる事例は、文化人類学的なアフリカでのフィールドワークから大学生のコミュニケーションのビデオ分析、日本の伝統芸能の継承など様々なものに及ぶ。正直、個々のテーマについて書かれた論文や書籍を読まないとよく理解できないところが多かったが、それでも「ことばの手前」としての身体におけるコミュニケーションの相互行為を扱っているという点は一貫している。
特に自己接触に関するビデオ分析が非常に面白かった。後、伝統芸能の伝承の研究は、私が今調査しているロックバンドのスタジオでの相互行為の分析に有用な先行研究がありそうだと思った。とはいえ、ロックバンドがやっているのはある知識を持った熟練の者が若い衆に何かを教えるというコーチングとはちょっと異なるゆえに、いろいろと自らで立論せねばならぬとひしひしと感じている。
最後は好井先生の新書だが入手経路が不明で、おやじの本棚から抜いてきたものかもしれぬ。読み始め当初はなんだかぬるい新書だなと思っていたが、全部読むと良い質的な社会学の入門の入門書だと思える。特に挙げられた文献はどれも価値が高そうだ。しかしながら、この好井先生が念頭に置く「社会学」ってのが多少偏りがあるようには思えた。もちろん社会学が学問的にも公共的にも価値があるのは、それが「社会問題」の学問であることによるのは大きいと思えるけど、何もそれだけではないように思える。あとグラウンデッド・セオリーにかなり否定的なことが書かれているけど、この辺ちゃんと調べなきゃ本当につまらない研究かどうかちょっと分からない。
しかしながら、最近こうして読んでくるとすっかりエスノメソドロジーになれた感覚が出てきたな。