読書

上巻に続いて読んだ。
憂鬱と官能を教えた学校 下---【バークリー・メソッド】によって俯瞰される20世紀商業音楽史 旋律・和声および律動 (河出文庫 き 3-2)
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正直、上巻よりもおもしろくなかった。旋律・和性の講義が未消化だからかなー。というかやっぱ計画に無理があったよねって講師自ら認めているとおり、バークリー・メソッドを12回の講義でやるのは困難だ。ただ今までなんとなくしか理解していなかったモードの概念をザクっと理解できたのは非常に良かった。気づけは自分もロックバンドでモーダルな作曲をしてきた部分もあると理解した。まあリフ主体のロックはコーダルというより対位法的であったりモーダルであったりするよね。
律動の講義はバークリーから離れた話であってだいたいが知っていることではあったが、変拍子を16ビートの近似として理解する方法は非常に参考になる。あとそもそも3拍子自体、近似値であって本当の3拍子とかたぶんないからっていうあたりは、音楽の認知を考えるに示唆的であった。拍子の概念は多分に志向的なものであって、物理的な音楽の性質ではないと、Roger Scrutonなんかも言っている。
細かいつっこみを入れると、言語とリズムの習得をパラレルの論じて、「全部社会的なものなので」どういう可能性もありうるという話のところ。未だに日本の知識人には、言語に対してタブラ・ラサの神話が機能しているんだなと改めて思った。菊地・大谷さんもチョムスキーとかそれ以降の認知科学の本読めばいいのに(ラカンとかもういいからよ・・・)。
あと本の後半で「カオシック」って言葉連発しているけど、これカオティックならまだしも(カオティック・ハードコアw)、「ケイ(ア)オティック」のことだよね?なんかフランス語とかでもしかしてカオシックとか呼ぶのかもしれん、はたまたジャズ業界ではハードコア業界とは違ってカオシックと呼ぶのかな(笑)。
上巻下巻を通した全体的な感想としては、アフロディズニーを読んだときよりやはりはるかに面白かった。特におそらく菊地さんのほうだが、彼の実践はある意味で王道的な美学者なんだなっておもった。音楽に対する態度や、食、服装に対する態度。基本的にかなりの勉強家であるし、探求者である。ただあとがきでちょっとナルシスト入ってるのは大目に見るべきか、美学者たるものナルじゃなきゃいけないのか(笑)。
あとこの本の最後に人と一緒に音楽を作る喜びが書かれていたのは、バンドマンとして素直に共感いたしました。さらに余談だけど、DCPRGと同時期に我々ノーザンショックも変拍子によるダンス・ミュージックを模索していたという事実に気付いた!まあ俺らはヘロヘロなアマチュアバンドだったけど、それでも考えることは一緒だなって。でも「電波」という曲でやった4打ち変拍子は結構成功した試みだったと思うよ、フロアでリズムに乗ってたら途中で拍が裏返るというダンス泣かせな楽曲やったし。

ストリート・コーナーソサエティ
William Foote Whyte
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次にこれを研究と趣味の両方として読んだ。社会学のクラシック、都市社会学のパイオニア、超有名な本だから、ただ感想だけ書いておく(ところでなんとかクラシックって言い回し、今ではいろんなとこで言われるんだね。そのうちカノン批判クラシックとか出来たらなんだか笑っちまうね)。
元の論文のところは普通にゲットーのルポとして面白かったよね。最近、ブラック・ラグーンとかにハマッてるから、アウトローなところの現場に対する興味は強いから、マフィアと警察の癒着の実態とかかなり面白かった。学問的な価値がどんだけあるのか、質的研究に詳しくないんで分からないけど、読み物としては十分に楽しめた。
しかしながら、このSCSの真価はやはり後で加筆されたアペンディクスにあるといってよい。アペンディクスではホワイトの研究のバックグラウンドや方法、インフォーマントとの接触について詳しく書かれている。中でも彼が研究のために不正投票を行ったところの記述はすごい面白かった。年齢や名前を偽ってウソついたりするんだけど、いちいちキョドってヒヤヒヤもんです。なんにしろフィールドワークにおける倫理の問題はまじでドープだなって思った。
ところで内容とは結構ずれるけど、コーナヴィルのギャング団が一番の娯楽としてボーリングを取り扱っているのが興味深いな。ボーリングっていうと、もう完全に廃れた文化なんだと思うけど、20世紀の若者の不良文化の場所としては非常に重要なんだろうね。日本だとちょうどゲーセンにあたると思う。
たしかに向こうの映画ではボーリング場ってワルがたまっているイメージってあるよね。その辺加味してか、ブラック・ラグーンの日本編でもチンピラが雪緒ちゃんラチってたむろってるのがボーリング場なんだよね、これまた。ボーリングという場所、もしくは表象についての研究って結構たのしそうだ。