日本の広告、音楽、芸能界

えーはてなで大変に話題になっている
タイアップの歌謡史
速水 健朗
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を読みました。ブログでの言及が非常に多いのは、この本自体がステルス・マーケティングしているんじゃないかって疑っているほどです(笑)。というか著者自身がこれほどウェブで売り込んでたりする本って珍しい気もします。これからはブログを始めてから、単著を書いて自ら売り込むのが主流となるんでしょうか!
さて内容の話はすでにかなり言及されていて、なんにも新しく付け加えることができないんで簡単に感想を書いときます。
全体的に中立的な書かれ方がしていて、俺はもっと速水さんの主張とかがあっても良いかなとも思いましたが、量的にも多分無理なんでしょう。内容的にはかなり濃い情報量なんで新書じゃなくて、単行本でもっと詳しい話とか分析とか読みたいなと思いましたが、まあそれは別の人がやってもいいんだとは思います。でも非常に参考になる話があって以下の二点に関しては長年の疑問がすこし解けました。
まず一つには、以前から日本のポピュラー音楽はやたら季節感を煽るよなーって不思議に思っていました。春になると「さくら」とかそういう歌ばっかになるし、夏になるとTUBEとかがなんだがやたら暑さを煽ってきます。冬は冬でまたクリスマスソングとかばっかです。そういった傾向は英米のポップスにも多少はありますが、基本的に(タイトルや歌詞で)季節を感じさせる曲ってのは稀です。クリスマス・ソングとかはまあありますが、日本ほどではないし、ビーチボーイズみたいな夏っぽいミュージシャンもいますが別に季節とともに活動してるわけではありません(まあ西海岸に四季もクソもないですが)。
これって単純に四季の移り変わりに敏感な日本民族の傾向性とかかなーってヌルく思っていたのですが、とんでもないとんでもない、これらは要するにタイアップ・ソングだったのですね!まあ当たりまえといえば当たりまえですが、日本は四季の移り変わりと消費に緊密な関係がある国であって、広告も四季の移り変わりと共に変わっているから、タイアップ・ソングが四季をやたらと打ち出すのは当然なことだってわけでした。こんなことにも気が付かない自分がまあ馬鹿なだけですが。
もう一点は、以前JASPMの大会の時に思ったことですが(http://d.hatena.ne.jp/shinimai/20061205/p1)、なんで日本のミュージシャンはトインビーが言うところの自律性(つまり、サラリーマンみたいじゃなくって一定、「自由」に発言したり行動したりしているようなこと)を獲得すること相対的に少なかったりするのかということです。以前は、それを日本の戦後のロック受容と繋げて理解できるのではって思っていたけど、この本を読んで気付いたことは、もっと根っこが深いんじゃないかってことです。つまり、日本のポピュラー音楽文化は基本的にTVや映画、広告産業といった他のものと共に歴史を作ってきたのであって、日本のポピュラー音楽文化を考察するにはこれらの他の要素を見逃すことは到底できないであろうということです。そして、それぞれのメディアを横断する世界として語られるいわゆる「芸能界」という存在が日本のポピュラー文化を考察するには非常に重要なのではないかということです。ちょっと考えてみるに、英米にはそういった「芸能界」って存在はあるんでしょうか?まあ最近のパリス・ヒルトンやなんかのいわゆる「セレブ」ってやつはそれに近いとは思うんですが、基本的なところとして英米はミュージシャンや俳優や司会者のような人がいても、「ゲイノージン」というなんだかわかんない種類の人はあんまりいなかったと思います。海外のTVのCMも基本的にエキストラとか俳優、モデルのようなそれ専門の人が出演するのが普通であります。まあなんにしろ「芸能界」研究はとても重要だってことです。社会学とかでやってる人はいるのかもしれませんが。
最後に一つ、アメリカでは放送局が音楽出版を持つのは禁じられているという話ですが、これかなり重要なことですが意外にも知りませんでした。ってか無知を恥じます…。良く考えれば、放送局が原盤権とかを持ってる曲をガンガン流すって普通に考えて独占禁止法とかでヤバイよねってのは法律をよく知らん人でも予想はつくことですが、日本人のそこらへんの感覚ってたぶんもう本当におかしくて麻痺してんじゃないかと思う。普通にミュージシャンとして成功したい人も、どっかで広告として自らの楽曲を機能させなきゃいけないってのは健全な感じはしない。あとペイオラも日本じゃアウトじゃないんだっけ?
まあ適当に話を繋げると、例のあるあるのスキャンダルを見ている限り、日本人には広告に関するリテラシーとか感覚がどうも欠如している気がして、それが音楽文化にもたぶんに影響を及ぼしているいるんだなーって感じました。
http://d.hatena.ne.jp/kataru2000/20070128/p1
ここで言及されているように速水さん自体はタイアップ自体に肯定も否定もせずに、ブログから判断するにそれを楽しんでいるようには見えるんですが、それはリテラシーがあってこそで広告か否かを峻別できない人には危険なことのようにも感じます。確かにタイアップがなかったら生まれなかった名曲や珍曲も多いとは思いますが、放送局が自らの利益となるのを見越して特定の音楽をガンガン流しているのなら、オリコンカウントダウンTVのランキングをあーだこーだ言う以前の問題として、日本のポップスなんてほとんどハイプだぜFUCK!っていう論理が通ってしまうんで、やっぱ音楽を純粋に好きな人間としては少しばかりの寂しさを感じざるを得ないってことで終わりにしときます。