電車の中で

本当に久しぶり趣味の読書。

ゲド戦記に関しては、もう他人ごととは思えないくらい影響を受けた本なので、問題作といわれた『帰還』についてもこの突然の続編についても楽しめたとは思う。
だが、一部の書評で言われるとおり、初期三部作とその後の二作の溝は確かに存在している。その溝に対して、自分のように幼いころゲド戦記に出会い初期三部作を知り、高校、大学になって後の二作に出あったものは幸せだろう。端的に言えば初期三部作は児童文学としてもよめる優れたファンタジーであるが、これはファンタジーとしてはやはり花がなさ過ぎるし、子どもが楽しめるようなものではない。さらに言えばその思想的問題の深さは前作『帰還』よりも浅い気もした。
まあだからといって、ル=グゥインのファンタジー作家、思想家としての名誉が崩れるものではないし、ファンにとっては壮大なカーテンコールとして機能するこれもまたよしとするほかないし、なんというか作者自身のアースシーという世界に対する愛によって書かざるを得なかったという気持ちは充分に伝わった。
それにル=グゥインの作品はSFの『闇の左手』ほかいろいろあるし、なにもゲド戦記にこだわることはないのだ。